「北海道ベンチャーキャピタル」と連携した
スタートアップ 発掘・支援プロジェクトPROJECT STORY 02
北海道に新たな価値をもたらす
技術・サービスに支援
OUTLINE
世界的に関心が集まっている「スタートアップ支援」。札幌市も2019年から「START UP CITY SAPPORO」プロジェクトを発足するなど機運は高まっています。
北海道銀行では2000年頃から、新たなビジネス発掘のためのイベント開催や、企業支援を行うファンド立ち上げなども行っている。通常の銀行業務の枠にとらわれず、新たな技術やサービスの立ち上げ・成長・拡大を支援することで、北海道の地域経済へ貢献する新たな形を作り出しています。
PROJECT MEMBER
松田 基貴
コンサルティング営業部 調査役
01自分にとっては未知だった
スタートアップ支援の世界へ。
近年ではあたり前に聞かれるようになってきた「スタートアップ支援」。札幌市でも「START UP CITY SAPPORO」というプロジェクトが2019年に始まるなど、関心が高まっています。
北海道銀行では、新たな企業発掘・育成を手掛ける「北海道ベンチャーキャピタル株式会社(以下HVC)」と連携し、2000年ごろからスタートアップ支援を開始しました。2016年にはデジタルテクノロジーを活用したビジネスアイデアを広く募集する「X-Tech Innovation(クロステックイノベーション)」を共同開催。2019年にはHVCと共同で、成長を狙うベンチャー企業への投資を行う「どさんこ地域活性化ファンド」を立ち上げました。
私たちのような金融機関だけでなく、さまざまな事業者・自治体でこうした取り組みは広がっています。企業の数は放っておくと減っていってしまいますから、新しい企業を生み出す、成長を支える、雇用を拡大させる…そして地域の活性化へとつなげていくという動きは、地方金融機関としても、とても意義のあるものだと思っています。
私は2018年にHVCへ出向したことから、スタートアップ支援に携わることになりました。それまでは銀行員として法人融資・法人得意先係を担当していたため、全く違う業界へのチャレンジといえます。最初は正直に言って、不安でした。
スタートアップとは、そもそも世の中に新しい価値を生み出そうとする人たち。名前もサービス内容も知らないことが前提なのです。業界によっては、横文字や専門用語が飛び交うため、はじめは面談していて「なにを言ってるかわからない」ということも。新人行員のときの気持ちがよみがえり、衝撃を受けました。それでも、まずはひとつひとつの言葉をノートに取り、調べる。そんな基本的なところから始めていきました。
「X-Tech Innovation(クロステックイノベーション)」の様子
02当行主催のイベントから
新しい企業との出会いがあった
AIQ(アイキュー)株式会社と最初に出会ったのは、2018年のX-Tech Innovationです。私はHVCの社員として、同じタイミングで出向した上司とともに、情報収集の一環で参加していました。AIQはAIエンジンを活用したマーケティング支援に強みを持った会社。代表の高松様が北海道浦河町の出身というご縁もあり、私たちに資金調達についての相談をいただいたのです。
資料のやり取りやヒアリングを重ねる中で見えてきたのは、彼らの持つ優位性と成長性です。AIQが独自開発した「LiveReal(リブリール)」は、SNSアカウントの属性をプロファイリングして、性別・年代・居住地・趣味嗜好などを可視化できるAIエンジン。これは例えば、自社の企業アカウントがどのような方にフォローされているか、あるいはこれから顧客化したいターゲット層にどうすればアプローチできるかといった分析に役立ちます。
ひとりひとりのエンドユーザーと個別に接触できるSNSのマーケティングは年々重要度を増しています。企業にとっては、これまでのマスマーケティング(広く多数にアプローチ)の戦略とは違い、自分たちのファンになる可能性が高いユーザーに絞ってアプローチできるため効率的なのです。同様のサービスを提供する企業は他にもありましたが、プロファイリングの精度の高さや、この技術において特許を取得しているという点でAIQには強みがありました。
こうしたマーケットの成長性・規模感や、企業が持つ優位性、そして開発拠点を札幌に持つことなども考慮して、AIQへの投資実行が決まっていきました。
03スタートアップ支援においても「北海道への貢献」が重要。
私たちはAIQ以外にも、さまざまな投資先発掘に携わりました。北海道発のベンチャーで、「血中の脂質を針を刺さずに測定できる」技術を持った企業もその一つです。このような分野でグローバルに活躍できる可能性を秘めた企業が北海道にもあるのかという驚きと、まだまだ財務的には脆弱でありながら大手企業との取引が拡大しており、これこそがスタートアップなのかと感じたものです。
ファンド投資自体がハイリスク・ハイリターンなものですから、出資を決める上では当然高い成長性が期待できるか(リターンを得られるか)という判断が欠かせません。加えて私たちにとっては「北海道に資する企業なのか」というのも重要な選定理由でした。本社・支社など拠点が北海道にあるか、道内企業とビジネスマッチングによる相乗効果が生み出せるか…北海道の雇用拡大や経済効果につながるのかという視点を最も大切にしていました。
スタートアップ支援は、銀行業務と比べると特殊だと感じます。例えば経済的な支援として行う融資は、確実に返済されると審査する100人中100人が判断して行われるもの。対してベンチャーへの支援は、まず自分自身が出資したいと思えるかという熱量が重要でした。そこから経営者のビジョンに共感できるか、世の中に必要とされるサービス・技術であるかという分析を重ねて、最終的な判断に至るのです。
銀行と取引先(お客さま)という関係性ではないというのも、大きな違いかも知れません。スタートアップは社会課題を革新的なアイデア・サービス・技術で変革するために起業する、といった志の高い経営者が多く、優秀な方も多い。そういった方々とビジネスを通じて関われることは、非常にやりがいを感じた点です。
04支援を広げていくために
自分の経験を伝えていきたい。
投資先発掘や知識を深めるため、道内・道外問わずさまざまなイベントにも顔を出しました。ベンチャーキャピタル(以下VC)ネットワークといって、全国のVCが集まって行う勉強会に参加したことも。そうした場で知識・経験はもちろん、人のつながりを得られたことは大きかったです。スタートアップ支援の業界は、人と人がフランクにつながっていくケースも多く、今でもそういったネットワークから新たな企業を紹介いただくことがあります。また企業同士のビジネスマッチングなどにおいても、助けになっています。
北海道にある独立系のVCはHVCだけでしたが、現在は新たなVCも立ち上がっています。「STARTUP CITY SAPPORO」などの取り組みも始まり、資金の出し手はまだまだ少ないのが現状ですが、これから北海道においてもスタートアップ支援は広がっていくでしょうね。
私は現在1年間の出向期間を終え、北海道銀行のコンサルティング営業部員として、スタートアップ支援に携わっています。投資に至るフロント業務からは離れましたが、HVCと連携しながら銀行取引・融資などに携わり、投資後の成長・拡大を支える責任感のある役割です。恥ずかしながら出向前はスタートアップという言葉すら理解できていませんでしたが、さまざまな経験を通じてできた土台をもとに、業務に取り組むことができています。
一銀行として、新たな価値を生み出す企業を支援する意義は重要なもの。当行でこうした業界の経験を持った人材はまだ限られていますが、将来的には大きな業務にできる体制を作っていきたいですね。そのためにもっともっと私も知識や経験を深めて、みんなに伝えていかなければと思っています。